この記事の要点
- 製造では、図面や保全の記録、熟練者の発話をAIに取り込み、保全や技能の伝承を支える発表が見られます。
- 物流では、荷降ろしや電話の受付など、人手の負担が大きい作業にAIを使い、人の役割を組み直す発表が見られます。
- 小売では、AIが発注の数を推奨・算出し、店舗の人が確かめて調整する形が見られます。
2025〜2026年に国内の製造・物流・小売の企業が公式に発表したAIの活用を見ると、熟練者の知識や過去の記録をAIに取り込む形や、人手の負担が大きい作業をAIが受け持つ形で、人の判断と作業を支える発表が見られます。AIが案や数を出し、人が確かめて決める、または人に引き継ぐという分担を、仕組みに組み込んでいる点も共通しています。
ここでは、企業が自ら公表した発表を、製造・物流・小売から2件ずつ、合わせて6件紹介します。内容と数字は、各発表に書かれているものだけを取り上げます。医療・金融・行政などほかの分野の動きは分野別に見るAIの活用の動き、生成AIの業務での活用は国内の生成AI活用の動き:2026年の公式発表からで紹介しています。
製造:ダイキン工業と日立製作所の設備故障診断
ダイキン工業と日立製作所は2025年4月22日、工場の設備の故障の診断を支援するAIエージェントについて、実用化に向けた試験運用を始めたと発表しました。場所は、業務用空調機器を生産するダイキンの堺製作所臨海工場です。
保全技術者が点検の中でポンプやバルブなどの故障を見つけたときに、AIエージェントが故障の原因と対策を技術者に示します。設備の図面を生成AIが読める形(ナレッジグラフ)に変え、保全の記録などのデータと、日立の故障の原因を分析する手順を取り込んでいます。事前の実証実験では、回答の時間が10秒以内、精度が90%以上であることを確かめたと発表しています。精度は、熟練の保全技術者が評価したものとされています。
出典:ダイキンと日立が協創、工場の設備故障診断を支援するAIエージェントの実用化に向けた試験運用を開始(ダイキン工業・日立製作所、2025年4月22日)
製造:シーイーシーとAGCの技能の伝承
シーイーシーとAGCは2026年10月15日、生成AIを活用して製造現場の熟練者の技を次の世代に伝えるための、音声認識のシステム「SmartLogger Voice」を共同で開発したと発表しました。
作業者は作業をしながら話すだけで記録が取れます。登録したキーワードの発話をきっかけに、作業者、作業の開始と終了の時刻、作業の内容を記録し、作業中のつぶやきも残すことで、熟練者の判断や注意点を記録できるとしています。集めた音声のデータは生成AIが整理し、作業分析のレポートや伝承の資料をつくります。AGCの製造現場での実証で、熟練者の作業分析と、技能の伝承の資料づくりにかかる時間を、それぞれ従来の10分の1以下に短縮できたと発表しています。
出典:シーイーシーとAGC、生成AIを活用し製造現場の匠の技を次世代へ継承 音声認識システム『SmartLogger Voice』を共同開発(シーイーシー・AGC、2026年10月15日)
物流:サンワサプライとSGシステムの荷降ろしロボット
サンワサプライとSGシステム(SGホールディングスグループのIT統括事業会社)は2026年6月23日、AIを搭載したコンテナ向けの荷降ろしロボットを、サンワサプライの西日本物流センターに導入したと発表しました。2026年5月から運用しています。
背景として、夏場にはコンテナの中が50〜60℃に達することがあり、暑さや重い荷物による作業の負担と、人手の不足が挙げられています。2025年に導入した東日本物流センターでは、コンテナの中で作業する人をなくし、従来の約半分の人員で荷降ろしができるようになったとしています。西日本の導入機では、カメラの位置とアームの速度の制御を見直して荷物の認識の精度と安全性を高め、最大の処理能力が東日本の導入機より約15%上がったと発表しています。あわせて、操作の手引きと作業者への教育、離れた場所からのサポートの体制も整えています。
出典:サンワサプライとSGシステム、AI荷下ろしロボットを西日本物流センターに導入(サンワサプライ・SGシステム、2026年6月23日)
物流:西濃運輸のカスタマーセンターの電話の受付
アルティウスリンクは2025年11月28日、西濃運輸のカスタマーセンター(配達に関する問い合わせの窓口)で、ボイスボット(AIが電話で応対する仕組み)を取り入れた取り組みを発表しました。
繁忙期や自然災害のときには問い合わせが急に増え、限られた人員だけでは応答率100%を保つことが難しいという課題がありました。モビルスのボイスボット「MOBI VOICE」が最初の応対で用件を聞き取り、その後にオペレーターが折り返す形で、AIと人を組み合わせています。仕組みの中に人へつなぐ流れを組み込み、繁忙期や非常時でも応答率100%を保てるようになったと発表しています。
出典:アルティウスリンク、西濃運輸のカスタマーセンターで繁忙期・非常時でも応答率100%を実現(アルティウスリンク、2025年11月28日)
小売:ファミリーマートのAIレコメンド発注
ファミリーマートは2025年7月10日、AIを活用した発注のシステム「AIレコメンド発注」を、2025年6月末から全国500店舗で運用し始めたと発表しました。おむすび、弁当、サンドイッチなどの発注の数を、AIが店舗ごとに推奨します。
AIは、過去1年間の販売の実績、店舗の周りの通行量、気象のデータ、祝日などの暦の情報を分析します。推奨の値は1日4回更新され、店舗が手で調整できます。新商品や販促商品、いつもと違うイベントのように、AIが考慮できない要素については、店舗の判断で調整することを勧めています。AIが推奨の値を自動で出すことで、発注の業務にかかる時間を1週間あたり約6時間減らし、担当者の負担を軽くすると発表しています。
出典:AIを活用した新たな発注システムを導入(ファミリーマート、2025年7月10日)
ファミリーマートの「AIレコメンド発注」での、AIと店舗の分担
AI
店舗
AIが考慮できない要素は、店舗の判断での調整を勧める
発表では、発注の業務にかかる時間を1週間あたり約6時間減らすとしています
小売:いなげやの需要予測による自動発注
BIPROGYは2025年6月12日、スーパーマーケットのいなげやが運営する全130店舗で、AIの需要予測による発注の自動化のサービスが稼働したと発表しました。販売の実績、気象の情報、特売の企画の情報などから需要を予測し、店舗の日々の発注の数を自動で算出します。
発注の担当者は、算出された商品ごとの数のうち、異常値として知らされる商品だけを確かめます。まず日配の部門で使い始め、発注の作業の時間が稼働の前に比べて約50%減ったと発表しています。今後は、生鮮食品など、ほかの分類にも広げる予定としています。
出典:いなげや全130店舗で小売業向けAI需要予測による自動発注稼働開始(BIPROGY、2025年6月12日)
6件に共通すること
6件の発表に共通するのは、AIに任せる部分と人が受け持つ部分を分け、その分担を仕組みの中に組み込んでいることです。
| 発表 | AIが受け持つこと | 人が受け持つこと |
|---|---|---|
| ダイキン工業・日立製作所 | 故障の原因と対策を示す | 保全技術者が点検で故障を見つける |
| シーイーシー・AGC | 音声を整理し、レポートと資料をつくる | 熟練者が作業をしながら話す |
| サンワサプライ・SGシステム | 荷物を認識して荷降ろしをする | 作業者が操作の手引きと教育を受けて運用し、離れた場所から支える |
| 西濃運輸(アルティウスリンク) | 電話で用件を聞き取る | オペレーターが折り返す |
| ファミリーマート | 発注の数を推奨する | 店舗が調整する |
| いなげや(BIPROGY) | 発注の数を算出する | 担当者が異常値の商品を確かめる |
ほかにも、次の点が複数の発表に見られます。
- 社内にある材料を使う:設備の図面と保全の記録、作業中の発話、販売の実績など、現場に日々たまる情報を使っています
- 一部から始めて広げる:1つの工場での試験運用、東日本から西日本への展開、日配の部門からの利用開始など、範囲を区切って始めています
自社で取り入れるときの観点
始め方の考え方は、会社の大きさによらず共通です。
- 人手の負担が大きい作業や、特定の人に頼っている作業を選ぶ
- AIの材料になる記録(図面、作業の記録、販売の実績など)が社内にあるかを確かめる
- AIが出したものを、だれが、どこで確かめ、どう直すかを決める
- 1つの拠点や部門で試し、測ってから広げる
配車やシフトの計画、需要予測と在庫の見直しの進め方は、配車計画・シフト作成をAIで組むときの進め方と需要予測で在庫と発注を見直すで取り上げています。試しで終わらせない考え方は、AIの試し(PoC)で終わらせないためにをご覧ください。
当社のご支援
当社のAI開発の例には、食品物流(低温物流)で重量・車高・時間帯の制約に対応してAIが配車計画をつくり、担当の方が承認する例や、物流・倉庫業で主な品目の出荷量を毎朝予測して画面に表示する需要予測AI、注文書を読み取って基幹システムへつなぐ帳票読み取りAIを載せています。どの業務から取り組むかの整理はAI・DXコンサルティング、業務に合わせた開発はソリューション提供をご覧ください。
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