この記事の要点
- 効果は時間・品質・売上・リスクの低減の4つに分け、それぞれ金額への置き換え方を決める
- AIでは、人の確認の時間、使う量で変わる利用料、直し続ける運用の時間を見落としやすい
- 見積もりは一つの数字にせず幅で置き、結果を大きく動かす前提を小さく試して確かめる
AIへの投資の費用対効果は、効果を「時間」「品質」「売上」「リスクの低減」の4つに分けて金額に置き換え、費用を初期・利用料・運用・人の時間で積み上げ、見込みを一つの数字ではなく幅で置いて見積もります。そのうえで、見積もりを大きく動かす前提を小さく試して確かめ、見積もりを直してから判断します。
費用対効果は、投資の額に対してどれだけの効果が得られるかというROI(投資対効果)の考え方で見ます。どの業務に投資するかを経営の目標から逆算する考え方は、経営の目標から、AIとシステムへの投資を決めるで説明しました。この記事では、候補が決まった後に、効果と費用をどう見積もるかを扱います。
効果は、4つの種類に分けて見積もる
AIの効果は、時間、品質、売上、リスクの低減の4つに分けると、それぞれの測り方と金額への置き換え方を決めやすくなります。
| 種類 | 効果の例 | 金額への置き換え方の例 |
|---|---|---|
| 時間 | 入力・調べもの・下書きの時間が減る | 減る時間 × 時間あたりの人件費 |
| 品質 | 入力の誤りや手直しが減る | 減る誤りの件数 × 1件の手直しにかかる費用 |
| 売上 | 返答が速くなり、受注につながる | 受注率や件数の変化 × 1件あたりの利益 |
| リスクの低減 | 見落としや情報の漏えいが起きにくくなる | 起きる頻度の変化 × 起きたときの損失 |
時間と品質は、業務の記録から比較的測りやすい効果です。売上は、AIのほかにも景気や営業の体制など多くの要因で動くため、AIによる変化だけを取り出すのが難しくなります。リスクの低減は、もともと起きる頻度が低いことが多く、金額にすると前提しだいで大きく変わります。
金額に置き換えにくい効果は、無理に金額にしなくても構いません。件数や時間など測れる形で記録し、金額の見積もりとは別の欄に並べて、判断の材料にします。
時間の効果は、確認の時間を差し引いて見る
生成AIの出力には、もっともらしい誤り(ハルシネーション)が含まれることがあるため、人が確かめる時間が新しく生まれます。時間の効果は、減る作業の時間(1件あたりの時間 × 件数)から、増える確認と手直しの時間を差し引いて見ます。
金額にするときは、この時間に時間あたりの人件費を掛けます。下書きを作る時間は大きく減っても、確かめる時間が長くかかれば、差し引きの効果は小さくなります。
金額にするときは、この時間に時間あたりの人件費を掛けます
費用は、AIならではのものを漏らさない
費用は、初期の費用、利用料、運用の費用、社内の人の時間の4つで積み上げます。導入から使い終えるまでの総額で見るTCO(総保有コスト)の考え方は、冒頭で紹介した記事で説明したとおりです。AIでは、次の点を見落としやすくなります。
| 費用 | AIで見落としやすい点 |
|---|---|
| 初期の費用 | 評価に使うデータの用意、いまのシステムとのつなぎ込み |
| 利用料 | 使う量で変わる料金。使う人や件数が増えると毎月の費用も増える |
| 運用の費用 | 精度の確認、プロンプトや参照する文書の手直し、モデルの更新への対応 |
| 人の時間 | 出力の確認、使い方の教育、問い合わせへの対応 |
AIは作って終わりではなく、答えの品質を確かめながら直し続ける運用(LLMOps・MLOps)が要ります。見積もりの段階で、だれがどのくらいの頻度でその作業をするかを置いておくと、運用の費用が抜けにくくなります。
人の確認の時間は、効果の側で差し引くか、費用の側に入れるか、どちらか一方で数えます。両方に入れると、二重に数えることになります。
測り方を決める:前と後、比べる相手
効果を確かめるには、使う前と使った後を比べることに加えて、AI以外の要因の影響を除くための「比べる相手」を決めておきます。
使う前の状態は、導入の前に測っておかないと後から取り戻せません。対象の業務の件数、1件あたりの時間、誤りの件数を、一定の期間記録しておきます。
前と後を比べるだけでは、繁忙期と閑散期の違いや、担当者の入れ替わりの影響が混ざります。比べる相手の置き方には、次のような方法があります。
- 同じ時期に、AIを使う部署と、まだ使わない部署を比べる
- 同じ部署の中で、AIを使う案件と使わない案件を分けて比べる
- 前の年の同じ時期の記録と比べる
測る期間は、使い始めて慣れるまでの期間を除いて置きます。使い始めは操作に慣れていないため、時間がかえって増えることがあります。
見積もりの不確かさは、幅で扱う
見積もりは、一つの数字ではなく、控えめ・中くらい・楽観の3つの見込みのように幅で置きます。AIは試すまで精度や使われ方が分からないため、一つの数字で示すと、その数字だけが独り歩きしやすくなります。
幅で置いたら、どの前提が結果を大きく動かすかを確かめます。件数、AIの精度、確認にかかる時間、使う人の数などの前提を一つずつ変えてみると、見積もりが前提の何に頼っているかが分かります。
費用を回収するには、差し引きで何時間減ればよいか、何件の誤りが減ればよいかを、逆に計算しておく方法もあります。必要な効果の大きさが分かれば、試しの段階で何を確かめればよいかがはっきりします。
小さく試して、不確かさの大きい前提を確かめる
見積もりを控えめ・中くらい・楽観の幅で置き、結果を大きく動かす前提が分かったら、そのうち不確かさの大きいものを、範囲を絞った試し(PoC)で確かめます。試した結果で見積もりを直し、続けるか、広げるか、やめるかを判断します。
たとえば、確認にかかる時間が見積もりを大きく動かすなら、実際の書類や質問で試し、確認にかかった時間を記録します。試しの前に、どの水準なら次に進み、どの水準ならやめるかを決めておくと、結果を見てからの議論になりにくくなります。進め方はAIの試し(PoC)で終わらせないためにで詳しく扱っています。
小さく試して、見積もりを直してから判断する
どの水準なら次に進み、どの水準ならやめるかは、試しの前に決めておきます
経営の会議に出すときのまとめ方
見積もりは、判断する人が前提まで追えるように、次の項目をそろえてまとめます。
- 目的と、動かしたい指標
- 効果の種類ごとの見込み(幅で)と、金額にしにくい効果
- 初期の費用と、毎月の費用
- 見積もりの前提と、結果を大きく動かす前提
- 効果の測り方と、比べる相手
- 続けるか、広げるか、やめるかを判断する時点と水準
前提を書いておくと、使い始めた後に実際の数字と見比べ、どこが見込みと違ったかを振り返れます。データにもとづいて判断する考え方はデータにもとづく経営とAIの役割分担でも取り上げています。
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