この記事の要点
- 中小企業庁は、事業承継で引き継ぐものを「人(経営)」「資産」「知的資産」の3つに整理している
- ノウハウは、見える化と文書化を先に行い、AIはその文書を探して示す役割で使う
- 経営の判断や取引先との信頼関係は、AIに任せず、人と人とで時間をかけて引き継ぐ
事業承継で属人化した業務とノウハウを引き継ぐには、まず業務を見える化して文書にし、その文書を社内で検索して答えるAIで、必要なときに引き出せるようにします。AIは、文書になっていない知恵を生み出すものではありません。聞き取りと文書化に人の手をかけ、AIは記録の整理と検索に使う、という分担が現実的です。
属人化とは、仕事のやり方や判断の勘どころが特定の人の頭の中にしかなく、その人がいないと回らない状態のことです。経営者や古くからの社員が長く担ってきた業務ほど、属人化しやすくなります。
事業承継で引き継ぐもの
中小企業庁は、事業承継で後継者に引き継ぐものを、人(経営)、資産、知的資産の3つの要素に整理しています。
知的資産の例として、経営理念、従業員の技術や技能、ノウハウ、経営者の信用、取引先との人脈、顧客情報、知的財産権、許認可などが挙げられています。株式や設備のように目に見える資産と違い、知的資産は形がないため、意識して手を打たないと、引き継がれないまま失われるおそれがあります。
このうち、業務の手順や判断の基準、顧客ごとの対応の記録のように、言葉や文書にできる部分は、AIを使った仕組みで引き継ぎを支えやすい領域です。
業務を見える化する
最初に、だれが、どの業務を、どの手順で行っているかを洗い出します。
経営者や担当者への聞き取りを中心に、次の点を確かめます。
- 定期的に行っている業務と、その頻度
- 業務の流れと、判断が分かれる場面
- 例外やトラブルのときの対応と、過去の実例
- 使っている書類、システム、相談している社内外の人
聞き取りの場を録音して、音声を文字に起こす方法もあります。会話の記録を残しておくと、後から読み返して手順を書き起こす材料になります。録音する場合は、話す人の了解を得て、記録の保存先と扱いを決めておきます。
文書にする
見える化した内容は、手順書、判断の基準、よくある質問の3つの形で文書にすると、後で使いやすくなります。
| 文書の形 | 書くこと | 向いている業務 |
|---|---|---|
| 手順書 | 作業の順番、使う画面や書類 | 締めの処理、発注、システムの操作 |
| 判断の基準 | 何を見て、どう決めたか。その理由 | 見積もり、与信、品質の判定 |
| よくある質問 | 社内外からの質問と、答え方 | 顧客対応、社内の問い合わせ |
判断の基準には、結論だけでなく理由も書いておくことが大切です。理由が分かれば、後継者は状況が変わったときに自分で判断し直せます。
聞き取りの記録から文書の下書きを作る作業には、生成AIが役に立ちます。ただし、下書きの内容が実際のやり方と合っているかは、話した本人に確かめてもらいます。
社内文書を検索して答える仕組み
文書がそろったら、社内の文書を検索し、その内容をもとにAIが答える仕組みを用意すると、後継者や社員が必要なときに引き出せます。
社内の文書を検索して、見つかった部分をもとに回答を作る方法をRAGといいます。「この取引先の請求の締めはいつか」「この不良が出たときは何を確かめるか」といった質問に、根拠の文書を示しながら答えられます。根拠の文書へのリンクを一緒に出すようにすると、答えを確かめやすくなります。
仕組みの作り方と注意点は社内の問い合わせ対応をAIチャットボットに任せるには、答えの精度を上げる工夫はRAG(社内文書の検索と回答)の精度を上げる工夫にまとめています。
AIの答えには、文書にない内容がもっともらしく混ざること(ハルシネーション)があります。重要な判断に使う前は、元の文書を確かめる運用にしておきます。
AIに任せない判断
経営の方針、取引先との信頼関係、人事、価格の交渉のように、人と人との関係や責任の重い判断は、AIに任せずに人が引き継ぎます。
経営者の信用や取引先との人脈は、文書を読むだけでは引き継げません。後継者が前の経営者と一緒に取引先を訪ね、時間をかけて関係を築く過程が欠かせません。AIで引き継ぎを支えられるのは、手順や過去の記録のような、言葉にできる部分に限られることを前提に計画します。
AIで支える部分と、人が引き継ぐ部分
- AIで支えられる手順や過去の記録のような、言葉にできる部分
- 人が引き継ぐ経営の方針、取引先との信頼関係、人事、価格の交渉など
経営者の信用や取引先との人脈は、後継者が前の経営者と一緒に取引先を訪ね、時間をかけて関係を築きます
進める順番
- 引き継ぐ業務と、その担い手を一覧にする
- 属人化の度合いと、担い手の退任までの期間から、優先する業務を決める
- 聞き取りを行い、手順書・判断の基準・よくある質問の形で文書にする
- 文書を検索して答える仕組みを用意し、後継者と社員が実際に使ってみる
- 使う中で見つかった不足を、担い手が在任しているうちに補う
担い手が在任している期間が限られるため、文書化は早く始めるほど、補う時間を確保できます。
当社のご支援
アメリア・テクノロジーは、グループのフロレンティナと連携し、事業承継やM&Aの前後のAI・DXをお手伝いしています。業務の棚卸しと優先順位づけはAI・DXコンサルティングで、社内文書を使うAIの開発はソリューション提供で承ります。事業承継の場面での支え方はフロレンティナとの連携をご覧ください。
- 事業承継
- 属人化
- ナレッジ管理
- RAG
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